聴く会話を身につけるために

練習の二つの方法

聴く会話(相手の言いたいことを確かめる会話)を身につける練習方法として二つのやり方を紹介します。

いずれも練習方法でもありますが日常の会話の中で実践として役立てることが出来るものです。

聴く会話もコミュニケーションのスキルですが、スキルには、理論・考え方と技法・やり方の二つの側面があります。理論・考え方は本を読むなど知識として理解すれば事足りますが、やり方を身に着けるには練習が必要です。

相手の言いたいことを確かめる会話も練習を繰り返すことで自分のスキルとして身につけることができます。

相手の言いたいことを確かめる」会話だけで相手と会話する

相手と会話するときに聴く会話(相手の言いたいことを確かめる会話)だけで相手と会話します。

聴く会話の研修で練習する際は聴き手と話し手にわかれて数分間行います。

実際の会話の中では時間を決めるのは現実的でないかもしれません。

相手と話し始めてしばらくの間やってみようとするやり方や自分で応答の回数を決めてやってみるやり方があります。

たとえば、家に帰って家族と話をするときに3回は続けてやってみよう、と決めてやってみます。

3回続けようとしたけれど相手の話が終わってしまったと判断したら自分の言いたいことをいってもよいでしょう。

いずれの方法にせよ、継続してやってみることでできるようになります。

最初は相手の言いたいことを自分の言葉で確かめることはうまく出来ないかもしれませんが、相手の話に関心を持って耳を傾けて聴こうとすること自体も練習兼実践です。

自分の意見や考えを言う前に「相手の言いたいことを確かめる」

聴く会話(相手の言いたいことを確かめる会話)だけだと自分の言いたいことが言えませんので、自分の言いたいことも言いながらでは聴く会話(相手の言いたいことを確かめる会話)も行うやり方があります。

自分が言いたいことを言う前に必ず直zrんに相手の発言について「相手の言いたいことを確かめる」を行います。

たとえば、日常会話では
A「最近、会社の中で挨拶をしない人が多くなっているのが気になっているだ。やっぱり朝あったらおはようございますって声を出して挨拶したほうがいいと思うんだ。大切なことだと思うよ。」

B「朝時間に余裕を持って会社にきて仕事の準備をすることが大切だと思うよ。時間ぎりぎりに来るから会社の中を小走りできたりして、あいさつもしなくなるよね」

となるところを

A「最近、会社の中で挨拶をしない人が多くなっているのが気になっているだ。やっぱり朝あったらおはようございますって声を出して挨拶したほうがいいと思うんだ。大切なことだと思うよ。」

B「(あなたは)挨拶することが大切だと思ってるんだね。僕は、朝時間に余裕を持って会社にきて仕事の準備をすることが大切だと思うよ。時間ぎりぎりに来るから会社の中を小走りできたりして、あいさつもしなくなるよね」

上のBの例のように、自分の意見や考えを言う前に一言相手の言いたいこと・気持ちを言葉にして確かめます。話の3要素の感情に注目して、相手の言いたいことや気持ち要点をなるべくコンパクトに伝えることがこつです。

このやり方は会議や打ち合わせのときにも友人や家族の会話でもあらゆる場面で使うことができます。

これを数回繰り返して行うと、相手の話を聴くことがどういうことか、日常会話とどう異なるのかが実感できます。

アサーティブなコミュニケーションは、自分の言いたいことを表現して相手の言いたいことを聴き、それを繰り返していく会話なので、この練習はアサーティブなコミュニケーションの基礎練習でもあります。

自分の考えと相手の考えが違うとき、相手の言いたいことを聴こうとせずに次の自分の発現を考えたり、相手をやり込めるための材料を探したりしていると相手の言いたいことを聴くことが出来なくなります。

相手が話し出したら自分の考えやいいたいことから離れて、相手の話、相手の言いたいことに集中して聴くことが実際の場面で役立つよい練習になります。

日頃どのように人の話をきいているのかを自覚する

日常会話では、自分の言いたいことを話したり、自分の訊きたいことをたずねたりしています。

ですから相手の言いたいことを確かめる会話をやってみると最初はとてもぎこちなく不自然に感じるのが普通です。

日頃やっていないから不自然に感じて当然だ、と思って練習することがしたほうが良いでしょう。

また、人の話をきいている時に、「相手の言いたいこと」を聴いているのではなく、自分の聞きたいこと、自分が関心のあることを聞こうとしていたり、自分の考えをまとめようとしたりしているものです。

意見の違う相手と議論をしているときに、相手は自分の考えの理由や根拠をわかって欲しくて話しているのに、自分は相手に反論するために相手の考えの矛盾に注目して聴いていたりどのように反論するか考えたりしています。

このように、相手の話を聴いているようで聴いていない日頃の自分のきき方がわかるとが、聴く会話(相手の言いたいことを確かめる会話)を身につける近道です。

日頃の自分のききかたと相手を理解する会話の違いをわかった上で、自分の言いたいことや自分が関心を後回しにして、相手が話しながらどのように感じているのか、どんな気持ちなのか、何を言いたいのかに関心を持ち続けるようにします。

相手の話している話の内容をどれだけわかったのかだけでなく、話している相手がどのように感じているのかに関心を向け続けます。

相手の話の内容だけに関心を向けると、「それはいいねえ」などと評価的になったり、「こうしたら」と助言やアドバイをしたり「それは大変だね」と同感したりします。

いずれも相手の言いたいことをわかろうとする聴く会話ではなくなってしまいます。

自分の会話(応答)を確かめる

聴く会話の練習をしたときに自分の応答が相手を理解する会話になっているかふりかえってみます。

相手の話の内容について事実を確認したり、アドバイスをしようとしていれば左上の「問題解決」の会話になっていますし、「それはいいですねえ」など「評価」になる場合も多いものです。

「同情・同感」と「理解する」は混同しがちです。実際に行ってみてそれが違うものであることを体感してください。

相手の話を聴いてたとえば、「(なるほど)それは大変だったね」「そんな言われ方をすると悔しいよね」と反応するのは「同情・同感」の会話です。相手の話を聞いて「このような事実があったらこういう気持ちになるものもっともだ、自分もそういう気持ちになる」など自分がどう感じているのかを話しているのです。

この「同情・同感」の会話も相手はわかってくれたと感じることが多いです。

しかし、自分と相手の違いを理解するのではなく、自分と相手の共通点を理解する、あるいは相手が自分と同じように感じると決め付けている可能性があり、右の相手を「理解する会話」とは異なります。

「相手を理解する会話」では、相手は自分と同じ様な気持ちや考えでも、自分と異なる気持ちや考えでも同じように、相手を理解しようとして聴くことが出来ます。

自分が同感できない相手を受け入れてきくことが難しい面もありますが、『そうか、そういう気持ちなのか』という関心で相手の話を聴き、「あなたはこう感じているんですね。こういいたいんですね」と言葉にして確かめます。

その上で自分の気持ちや考えと異なれば、自分の考えや気持ちを伝えればよいのです。

日常会話と聴く会話の違いを意識して、自分の会話がどんな会話になっているのか、問題解決や同情・同感の会話になっていないかふりかえります。それを繰り返すことで、日常の会話とは異なる聴く会話を行うことができるようになります。

相手を理解するとは「準拠枠」を理解すること

傾聴(アクティブリスニング)に関して、「相手の言うことをさえぎらずに黙って聞くこと」「相手の話の中の気持ちの部分の言葉を繰り返すこと」などと理解している人がいます。

管理職研修などの企業内研修のでもきくことについて「繰り返し」「オウム返し」をすることと教わったことがあると言う人がいます。間違いとはいえませんが、いずれも聴くことの目的が表現されていません。

聴くことの目的は相手の言いたいことをわかろうとすることであり、その結果として相手を理解することです。

アサーションの前提には、一人ひとり考えや気持ちは違ってよく、その違いは表現してよい、尊重されてよいとの考え方があります。

人それぞれ独自でユニークな存在であることを前提にしています。したがってアサーティブなコミュニケーションの中で相手の言いたいことをわかる、相手を理解するとは自分と相手の違いに注目して違いを理解しようとすることです。

コミュニケーションの中で相手と自分の違いに注目して相手を理解するために、「準拠枠」(Frame of Reference)の考え方を知っておくと便利です。

「準拠枠」とは人が出来事や体験したことについて判断したり、何らかの感情を持ったりする土台となる枠組み、その人なりのものの見方の入り口です。

コミュニケーションで相手を理解するとは相手の準拠枠を理解することでもあります。

相手のものの見方がわかっていればある出来事に対してどのような反応をするか予測がつき「何であの人はあんなふうに考えるの?」ではなく「あの人だったらこう考える(こんな気持ちになる)よね」と思えて、相手のことをわかっていると思えます。

準拠枠とは出来事や体験についてまず「参照する枠」なのですが、人それぞれが一冊もっている百科事典とたとえることがわかりやすいでしょう。

赤ん坊が生まれたときには白紙の百科事典を持って生まれてきます。ミルクが欲しくて泣いた時にお母さんから「お腹がすいたのね」と言葉をかけられて、この感じは「お腹がすいた」というのだと百科事典に書き込んでいきます。

このように一つ一つの体験から学び取ったことなどが百科事典に書き込んでありります。

目の前の出来事については常に百科事典の関連項目を読んで考えたり善し悪しを判断したり、感情を生じたりしているのだと考えられます。

生まれてから起こった出来事、経験や学んだことが人それぞれで他者とすべて同じことはありえませんし、また同じような体験でも百科事典に書き込む内容は違っているかもしれません。

ミルクが欲しくて泣いた時にお母さんから同じように「お腹がすいたのね」と言葉をかけられても、この感じは「お腹がすいた」と書き込む赤ん坊もいれば、「泣き声を上げるとお母さんがきてくれる、泣くとミルクがもらえてうれしい」と書き込む赤ん坊もいるでしょう。

もし同じ体験をしても百貨辞典に書き込む内容も異なりますから、世の中に準拠枠という百科事典は何十億あってもひとつとして同じものはないのです。

人間は毎日毎日色々な体験をします。そのたびに百科事典を参照して意味を調べなるとともに、新たに項目を作って書き込んだり、同じような体験であれば文章を太字にしたり、関連項目を増やしたり常に百科事典を編纂しながら生きています。

この百科事典を参照する作業も編纂する作業もほとんど無意識で行われており、自分でも百科事典を見るはできません。まして相手の百科事典の内容を見ること(理解すること)はとても難しいことです。

たまたま同じ文化のなかで生まれ育つと同じような体験や学習をしているので自分の百科事典と同じ項目で似ている記載がありますから相手のことがわかったような気になりますが、それでも詳しく見れば同じ項目でも人によって書いてある内容や関連項目は異なるでしょうし、相手の百科事典にあって自分の百科事典にはない項目もたくさんあります。

相手の人生の積み重ねである膨大な百科事典を理解することはとても難しくまた、全てを理解することは出来ないことです。

相手の百科事典をすべて理解することつまり相手を100%理解することは出来ないことが、相手を理解することの前提です。

相手を理解する観点では、相手が、話している出来事をどのように感じているかに注目し確かめることで、相手の準拠枠を少しずつ理解することができます。

「この出来事をこのように感じるのか、そうか、そういう感じなのか」と相手の感じ方に注目し自分と似ている点や自分との違いにも注目しながら聴いて、「...のように感じているのですね」と自分の言葉で確かめてみる。

相手がそのとおりと言ってくれたり、そうではなくてこんな感じなんです、と言ったりしてくれながら少しずつわかっていく。

お互いに意識しているわけではないですが、お互いの持っている見えない百科事典を見せ合いながら確かめている作業ともいえます。

相手の百科事典のすべてが判るわけではありませんが、話していることに直接関連することについては相手の感じ方を通して推測して理解できていく、これが相手を理解することです。

100%わかることはありえないと思うからこそ相手の百科事典を少しでも知りたい、わかりたいを思えるのかもしれません。相手をわかったと思った瞬間からそれ以上相手を理解することができなくなってしまいます。

相手との距離は近づくことはできるが、どこまで近づいても相手との距離はある、一致することはないのだとわかって上でお互いに距離を近づけていこうとすることが会話を通して相手を理解することです。

同じ出来事や状況について相手が自分と違う考えや気持ちを持っているときに、「どうしてこう考えるのだろう、こんな気持ちになるのだろう」と疑問を持ち、相手の考えや気持ちに対して否定的になることがあります。

話し合うことによって相手の準拠枠を理解することができれば、相手がどのように考えどのような気持ちでいるのかだけでなく、なぜそのように考えるのか、そのような気持ちになるのかを理解することが可能になります。

なぜそう思うのかがわかることで、自分と違う考えや気持ちも受け入れやすくなります。相手の準拠枠に納得しなるほどと思えたときには、新たに自分のものとして取り入れることも可能です。自分にとっては新たな視点をもったり、ものの見方・考え方のレパートリーを加えることが出来ます。

お互いの意見や考えが異なるとき、アサーティブなコミュニケーションを行うことで相手の準拠枠がわかり、お互いに物別れに終わっても納得できることもあります。

また、相手の考えや準拠枠をお互いに新たな知恵にすることで、思いもかけない新たな知恵や解決策が生まれることもあります。

DESCと聴く会話でアサーティブなコミュニケーション

アサーションの方法であるDESCは相手に対する切り出しのせりふですが、実際の会話の中では、DESを伝えた後、相手が自分の意見や考えを伝え、それに対してまた自分の意見を言うというやり取りの繰り返しになります。

DESCを準備して話を切り出しその後の会話の中でもDESを意識してわけて話すことで自分の言いたいことが相手にわかりやすく伝わります。

また、相手が話しているときには、相手がいいたことを聴こうとする聴く会話の態度で聴くことでアサーティブなコミュニケーションが成立します。

Dは事実の描写、Eは気持ちなどの表現、Sは提案ですから、話の3要素の事実、感情、計画に対応しています。

アサーティブなコミュニケーションの中で相手話を聴くときには、話の3つの要素の全体を統合して相手の言いたいことをわかろうとして聴く、なかでも相手の感情(DESCのE)に注目することで相手と自分の違いをより深く理解できます。

そのことで、お互いの違いを活かしたあらたな結論や解決策を生み出したり、相互理解によるよりよい人間関係の構築が期待できます。

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